ベニイ・グッドマン物語 THE BENNY GOODMAN STORY (1955)
1944年に歌手のLena Horne(リナ・ホーン)をフィーチャーした短編ミュージカル映画「Boogie-Woogie Dream」にTeddy Wilson and His Band(テディ・ウィルソン楽団)として出演したテディ・ウィルソンは、1955年にはGene Krupa(ジーン・クルーパ)やLionel Hampton(ライオネル・ハンプトン)と共にBenny Goodman(ベニ―・グッドマン)のカルテットのメンバーとして「The Benny Goodman Story」に出演しています。 ベニ―・グッドマン役はSteve Allen(スティーヴ・アレン)が演じましたが、映画の中での演奏はベニ―・グッドマンがジーン・クルーパやライオネル・ハンプトンと共に本人役で出演しています。 他にもHarry James(ハリー・ジェームス)、Peanuts Hucko(ピーナッツ・ハッコー)、Kid Ory(キド・オーリー)、Stan Getz(スタン・ゲッツ)、歌手のSammy Davis Jr.(サミー・デイヴィス・ジュニア)やMartha Tilton(マーサ・ティルトン)など当時のジャズ界の豪華メンバーが出演しました。 映画の中ではベニ―・グッドマン作曲のDon't Be That WayやStompin' At the Savoyは勿論、Let's Dance、Goody Goody、Sing, Sing, Sing、Moonglow、Memories of You・・・とスイングの名曲揃い!この中で1930年のTommy Dorsey Orchestra(トミー・ドーシー楽団)で有名なOn the Sunny Side of the Street(明るい表通りで)をテディ・ウィルソンが演奏しています。


ベニイ・グッドマン物語
http://www.sadanari.com/jazz981223_01.html から転載しています
The Benny Goodman Story (1955 米 カラー 112min.)

 
スタッフ
 

監督
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. . . . .バレンタイン・デイビス
音楽
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. . . ジョセフ・ガーシェンソン

 
キャスト
 

ベニイ・グッドマン
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. . . . . . . .スティーブ・アレン
アリス・ハモンド
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. . . . . . . . . . . . .ドナ・リード
特別出演. . . . . . .
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. . . . .ライオネル・ハンプトン
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. . . . . . . . .ジーン・クルーパ
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. . . . . . . .テディ・ウイルソン
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. . . . . . . . . . .スタン・ゲッツ
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. . . . . . .ハリー・ジェームズ

 




■ 美しきジャズのおとぎ話

 1919年、シカゴ。ユダヤ系のグッドマン一家は縫製職人の父を中心に、慎ましくも幸せに暮らしていた。3人の息子達に父は語る「いい本を読み、いい音楽を聴くのだ」。父は彼らを地元の音楽教室に連れて行く。ここではタダで音楽が学べるというのだ。
 身体の大きな兄達はスーザホンとホルン、歳の離れた末っ子のベニイにはクラリネットが与えられた。小さな楽器に不満げなベニイだったが、数年の内にめきめきと腕を上げる。「40年吹いて来たわしを6年で追い越すとは」と喜色満面の先生は「次はモーツアルトを」と意気込むが、ベニイはお金に繋がるラグタイムの仕事をやりたくて仕方がない。「ラグタイムなんて!(Don't be that way !)」と止める先生の声を背に、遊覧船のバンドに参加するベニイであった。
 遊覧船でベニイは運命の出会いをする。デキシーの神様キッド・オーリー(tb、なんと本人出演)の演奏を観るのだ。「感じるままにスウィングするんだ。ニューオーリンズではみんなこうだよ」というオーリーの言葉を聴き、ベニイの心に何かが生まれた。ベニイは西海岸に移り、ベン・ポラックの楽団に参加する。

 ポラック楽団で大活躍を遂げるベニイだが、久々に帰った故郷のシカゴでは、出迎えに来た父親が交通事故で亡くなるという悲劇にも見舞われた。
 ギャングが経営するモグリ酒場(スピーク・イージー、禁酒法の時代である)で演奏を続ける彼らに転機が訪れる。ニューヨークに出て、新しいスタイルで勝負を、という誘いが来たのだ。そのためにはギャングのボスに話を付けなければならない。交渉役を買って出たベニイを迎えたボスが、なんと幼なじみで...というくだりには笑わされる。
 ニューヨークに出たベニイはポラック楽団をやめ、自分のサウンドを模索する。しかし生活のために、つまらない仕事もやらざるを得なかった。そんな時、友人の妹アリスに「信念を貫くべきよ」と言われ、自らの楽団結成を決意する。
 この直前にクラシック演奏にまつわるちょっとした挿話がある。上流階級であるアリスの家のパーティーに招かれて、モーツァルトを演奏するというのだ。「きっと恥をかきますわ」という彼女の心配をよそに、シカゴ時代に磨いたクラシックの才能を蘇らせ大喝采。面白がって観に来たジャズ仲間の「今夜はハマってるぜ!(You are in a groove tonight !)」という言葉にハイソなオバサマが眉をしかめるシーンがちょっと愉快。

 NBC放送のオーディションに受かり、"ベニイ・グッドマン楽団"のサウンドはラジオに乗って全米を席捲した。東部標準時は午前1時、エール大の学生はベッドの中で聴き、太平洋標準時午後10時の西海岸では、南加大生がダンスに興じている。そして中央標準時では午前0時、ベニイのサウンドと共に愛を語る恋人たち...。このシーンが、最高だったなぁ...初めて観た小学生の時に、「アメリカってこんなに広いのか!」と驚き、その豊かなライフスタイルにもうっとりした。注目している人は少ないかもしれないが、ちょっとした名場面であるとも思う。
 地方では苦戦を強いられた楽団だが、ラジオを通してファンを増やし、安定した人気を獲得する。更に様々な仲間達も加わって来る。フレッチャー・ヘンダーソンがアレンジを買って出て、公演の途中で立ち寄ったレストランのオヤジ−ライオネル・ハンプトン(vib)も楽団に参加する。このハンプトンのエピソードも面白かった。

 そして終盤は上流家庭の子女であるアリスと、貧しい出ではあるが天才的な音楽家であるベニイが一緒になれるのかが物語の中心となる。「育ちが違いすぎるから」と反対するのは意外にもベニイの母の方であった。アリスの家では彼はその才能から尊敬を受けていたのだ。しかし最後には母親も心を許し、さらにクラシックの殿堂、カーネギーホールでの公演も大成功を収める。すべてはめでたしという結末である。


' The Benny Goodman Story '


■ かいせつ

 クラリネットとの出会いから、カーネギーホールでのコンサートの成功までを2時間弱で一気に見せる。グレン・ミラーと並ぶスウィングの大物、ベニイ・グッドマン(cl)の半生を知るには最高の一本である。「グレン・ミラー物語」と共にジャズ伝記映画の2大傑作と言われている。

 全編を通じて、演出にひとつのキーがある。それは「ダメダ!」と思わせておいて大逆転、大成功というものだ。「クラリネットでも、いいや」と仕方なく初めたが、天才的に成長、「ジャズなど堕落だ!」と言われながら、歴史的なアーティストに大成。「クラシックなど演奏出来るのか?」と心配させておいて...といったどんでん返し、映画用語でいうところの「カタルシス」(ただし中くらいの)がこの映画の見モノかもしれない。

 しかしあまりにベニイを善人に描きすぎるがために、なんとも平坦な、起伏に乏しい作品になってしまった、という評もある。さらには「あんなに"グッドマン"じゃなかったぜ」というジャズメンたちの皮肉も良く見かける。
 貧しいユダヤ人一家の三男坊がショウビジネスの世界で成功を収めるには、それなりのエゴや、自己主張もあっただろう(ビル・クロウ(b)のエッセイなどを読むとかなり辛辣に書いてある)が、とりあえずこここでは「おとぎ話」として楽しむことにしよう

 まぁ確かに、ヴィデオでしっかりと見直してみると、色々と弱点はあるな。地方では散々だった楽団が都市部でいきなりバカ売れしたり、結婚の障害となっていたベニイの母親があっけなく心を開いたり、アリスが迷ったり確信したりするのがあまりに短い時間の中だったり...転換が唐突すぎるのだ。せかっくの好転が描けていないなぁ。
 ジャズと上流階級の対比で後半1時間を押し切っているのも、類型的に思えた。娯楽映画ならではの「ご都合主義」のワナってやつにハマってしまったのかもしれない。脚本が、ちょっとユルい。


■ ジャズ・ファンの目

 ベニイ役のスティーヴ・アレン、これが非常に似ている。しかもアレン自身も歌もピアノも演奏し、レコードまで出しているそうで、身体のこなし、ノリについてはまず合格。しかしクラリネットの指遣いには若干、不自然なところもある。クラの吹き替えは件のクラシックの部分も含めてベニイ本人が担当。故にサウンド・トラックは申し分ない。

 ジャズ・ファンへのプレゼントは多彩なゲストであろう。ほとんど出ずっぱりのジーン・クルーパ(ds)と、テディー・ウイルソン(p)、実にいい芝居を見せるライオネル・ハンプトン(vib)、吹きまくりのハリー・ジェームズ(tp)とジギー・エルマン(tp)。特にエルマンのスタイルは強烈だぞ。夢に出てくるぞ(笑)。「え、このヒト映画なんか出てたの?」と驚くスタン・ゲッツ(ts)の出番には注意が必要だろう。ちなみにフレッチャー・ヘンダーソン役はサミー・デイヴィス・Sr(シニア)、お馴染みJrのお父さんである。
 コンサート・シーンが楽しいのも見どころのひとつ。楽団の明暗を賭けた平日朝の映画館でのコンサートでは観客の熱狂ぶりが凄い。「ホラみろ、ジャズってこんなにアバレながら観てもいいんじゃねぇか!」とリキみたくなる(笑)。
 ラストのカーネギー・ホール・コンサートのシーンは、実際に当時行われたものの忠実な再現になっているらしい。これも非常にお得である。時間も15分もあるのだ。

 しかし前述の通り、脚本の弱さは否めない。全編を通じて、ジャズの魅力のひとつ、危うさ、妖しさについてはいまひとつ...という気がする。確かに楽しさも魅力ではあるが。「グレン・ミラー物語」と比べ、数々の名曲に対するエピソードが物語に盛り込まれていないのも辛い。気の効いた逸話と共に登場するのが「その手はないよ」と「アヴァロン」くらいのものなのだ。折角の名曲が活きていないなぁ...。
 結局「グレンの魅力ってなに?」というところが十分に描けていないような気もする。微妙な映画である。


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