オルフェ  監督ジャン・コクトー 出演ジャン・マレー  1:34:50  
ギリシャ神話のオルフェウス伝説を基に、死と生の境を彷徨する詩人の姿に、俗世を超越した夢幻の世界に憧れる--彼の詩的テーマを託した、妖しい作品である。主人公のオルフェの通う「詩人カフェ」に「王女」と呼ばれる女性(カザレス)がある夜現われ、オートバイにはねられた詩人セジェストの死体を、オルフェに手伝わせ自分の車に運んだ。車はオルフェも乗せて、彼女の館に。そこでセジェストは蘇り、王女の導きで鏡の中に消えた。後を追うオルフェは鏡にぶつかって気絶する。目覚めれば鏡は消滅している。すっかり王女の美しさに囚われてしまったオルフェは、妻ユリディス(M・デア)の待つ自宅に戻っても虚ろであった。しかし、夜ごと彼の夢まくらに立つ王女を、彼は気づかない。妻は夫の心が自分から離れてしまったことを嘆きながら、オートバイにはねられ即死。死の国へと旅立つ彼女を、不思議な手袋の力で鏡を通り抜けて追ったオルフェは、二度と妻の顔を見ないという王女の突きつける条件を呑んで現世に連れ戻す。しかし、ユリディスは夫に見つめられずには愛を感じることもできず、よけい王女を嫉妬し、わざと彼に自分の顔を見させ、再び姿を消した。そこへ押しかけてくる友人たち。セジェストを奪ったのはお前だ--と彼らになぶり殺しにされ、遂に死の国へ迎え入れられるオルフェだったが、彼を愛していた王女は、生の世界に彼を連れ戻すことこそ正しいと悟り、妻と共に現世に帰した。メリエス直系の素朴なトリック撮影にかえって夢心地に誘われる映像は耽美派コクトーの独擅場。主役の、彼お気に入りのマレーも本作では一段と陰翳に富んだ表現を見せる。

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