ラヴ・ハッピー (1949)  1:31:07
マルクス兄弟最後の主演作は、ハーポの個性を前面に出したバックステージもの。探偵に扮したグルーチョは作品の初めと終わりに少し登場するのみ(後半は少しドタバタにも加わるが)で、解説役に徹している。ロマノフ王朝のダイヤのネックレスを隠したイワシ缶を、貧乏劇団の食料調達係のハーポが手に入れて始まる物語は月並みだが(敵のボス、婚約魔の亡命ロシア夫人イリヴィッチのキャラクターは面白い。子分役に若きR・バー)、何でも入ってしまう彼のよれよれレインコートがしょっぱなから活躍して、雰囲気は上々。後半、一座の看板娘のヴェラ=エレン(舞台練習の場面で「雨」の妖婦S・トンプソンの踊りを華麗にこなしてみせる)に恋して、珍しくペーソスに溢れた所も見せるが、それも嫌味なく決め、うっとりさせるハープの演奏を聞かせてからオトすタイミングもまずまず。往年のアナーキーな笑いを期待してはいけないが(唯一、ダイヤの在り処の自白を強要され、ウィリアム・テルよろしく頭上のリンゴを撃たれ、驚くよりまず先にそれにかぶりつき、芯までたいらげてしまうギャグがそれらしい)、後にジェリー・ルイス作品を手がけるタシュリンが脚本担当(B・ヘクトと共同)で、単純に視覚的なギャグはけっこう豊富。特に、劇場の屋上でネオンサインの明滅の下で展開されるクライマックスの追っかけはそのままズバリ、漫画映画(カートゥーン)。煙草の<KOOL>の絵看板のペンギンのくちばしの穴の中に飛び込んだハーポ。そこから吐き出される煙を吸い込み、次に悪漢どもに殴られると、ゴジラよろしく気焔を吐くというあんばい。その中でチコは一座のもぐりのマネージャーに扮し、主に台詞で笑わせ、粋なピアノ演奏(ユダヤのジプシー風音楽を舞台美術屋のヴァイオリンと共に)を披露する。スラップスティックというより、軽いミュージカル・コメディとして無難にまとめられている一作だ。



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