男と女 監督:クロード・ルルーシュ(Claude Lelouch)  1:43:01
モノクロとセピアカラーを巧みに使い分けながらムーディに仕上げた画面と、いまや誰もが知っているフランシス・レイのボサノヴァ調の名主題曲が見事に融合し、流麗でスタイリッシュな映像詩としてつづられていくという、当時としては画期的手法。 妻に自殺されたレーサーの男(ジャン・ルイ・トランティニヤン)と、スタントマンの夫と死別した女(アヌーク・エーメ)が、お互いの過去に引きずられながらも惹かれあっていく姿を、情感豊かに描いたクロード・ルルーシュ監督の出世作。アカデミー賞外国語映画賞およびオリジナル脚本賞、そしてカンヌ国際映画祭ではパルムドール(グランプリ)を受賞している。
アンヌはパリで独り暮し。夫をなくして、娘はドービルにある寄宿舎にあずけてある。年はそろそろ30歳。その日曜日も、いつも楽しみにしている娘の面会で、つい長居してしまい、パリ行きの汽車を逃してしまった。そんなアンヌに声をかけたのはジャン・ルイ。彼も30歳前後で、息子を寄宿舎へ訪ねた帰りだった。彼の運転する車でパリへ向う途中、アンヌは夫のことばかり話しつづけた。その姿からは夫が死んでいるなどとは、とてもジャン・ルイには考えられなかった。一方彼はスピード・レーサーで、その妻は彼が事故を起したとき、ショックから自殺への道を選んでいた。近づく世界選手権、ジャン・ルイは準備で忙しかったが、アンヌの面影を忘れられなかった。次の日曜も自分の車でドービルへ…と電話をかけた。肌寒い日曜日の午後、アンヌ、ジャン・ルイ、子供たらの四人は明るい笑いにつつまれていた。が同時に、二人はお互いの間に芽生えた愛をかくしえなかった。血と汗と泥のレースを終えたとき、ジャン・ルイはアンヌからの電報を受けとった。それには、愛してます--と書いてあった。彼はすぐに車を駆ってパリへ、そしてドービルへ。二人は砂浜で身体をぶっつけ合い、その夜は安宿のベッドに裸身をうずめた。だが愛が高まったとき、思いもかけずアンヌの脳裡に割りこんできたのは、死んだ夫の幻影だった。二人は黙々と着物を着た。アンヌは汽車で、ジャン・ルイは自動車でパリへ向った。しかしアンヌを忘られぬ彼は、彼女を乗換え駅のホームに待った。思いがけぬ驚きと喜びをひとつにして、アンヌはジャン・ルイにとびついた。凍てついた空気の中での口づけ。それは最後の口づけかも知れなかった。だが二人には、そんなことはどうでもよかった。



ルルーシュの「男と女」は1966年に封切られ、「ランデヴー」は1965年に作られています。どうも「男と女」の映画制作中に、ランデヴーが企画されたというか発想したように思えてなりません。そして二つの映画にいくつかの相互に連想できるポイントが見えかくれしています。映画の内容は、まったく違うものの、あるポイントは「男と女」のイメージ予告版ともとれるからです。そういった意味で見較べるとなるほどねと、フランス人のウイットとしたたかさが読みとれます。
 「男と女」をざっと紹介しますと、ル・マン24時間レースに出場し、アクシデントで病院に運び込まれたことが原因で、自殺してしまった妻をもっていたレーシングドライバーと、映画撮影中に事故で死んだスタントマンの夫がいた女が、お互いの子供を通わせている寄宿学校で出会います。過去の辛い想い出に引きずられながらも、ひかれ合っていく男と女の心の揺らめきが、カラーとモノクロームの映像をたくみに織り交ぜています。そして、レースが好きで、ちょっと前の車が好きな人には、こたえられないシーンが雰囲気を盛り上げています。午後四時スタートのル・マンとフォードGT40や、第35回モンテカルロラリーの場面、マキネンのワークス・ミニクーパー、コルチナ・ロータス、ルノー・ゴルディーニ、ランチア・フラヴィア、シトロエンDS21、そしてフェラーリ、ポルシェ911、この映画で主役の運転していることになっているムスタングと実に楽しめます。なにせ今となってはヒストリックカーなのですが、当然、ムキになって戦っています。273台の参加に対し完走42台で、トップをワークスミニが奪っていた時期でした。この映画の良いところは史実にもとづきフォードフランスのワークスがこのムスタング一台で出場し総合11位、クラスウイナーになったことを前提に作られています。レースシーンばかりではなく、特にパリの街は美しい。パリの夜はモノクローム映像が最もふさわしいことを証明しているかのようです。
 そしてもう一本の映画「ランデヴー」もクロード・ルルーシュが、多分、身銭を切って個人的に作ったものだと思われます。なんとたった9分間のドキュメンタリーです。ストーリーもナレーションもBGMもありません。アメリカの自動車雑誌カーアンドドライバーが「自動車の映画の中で、いままで見たこともない最高のものの一つ」と評しています。
 たった9分間、たった9分間ですよ、この映画は。そしてこれは、どんなコンピュータグラフィックで作られたものをもはるかに凌いでいます。やらせではなくて現実の映像なんだということを説明しなくても誰でもわかるからです。36年前といえば、全てがアナログの時代だったのです。この二本の映画を作ったクロード・ルルーシュの自分の車フェラーリ275GTBのフロントノーズに撮影カメラをくくりつけ、早朝のパリ、凱旋門を正面に見える場所から、アクセル全開でスタートします。それだけを聞けば、なんだと思うでしょう。しかし、見ればどんな人も言葉を失います。このフェラーリはアクセルをゆるめません。赤信号であろうが、通行人が横切ろうが、前方をバスや車がふさごうが、この9分間一度も止まりません。いくら早朝で、今の日本に較べれば車が少ないとはいえ、パリのメインストリートを撮影のための交通規制なしに、フェラーリをアクセル全開でやり続けるということは計画だててもできないことでしょう。アクセルを踏みつづけていることは響きわたるV12サウンドとカメラが物語っていますし、一応計画されたコースを走るつもりだったのでしょうが、その場の道路状況によってアドリブで変えている雰囲気がよく伝わってきます。一発勝負の一か八かの映画をよくやったものだという感想を持つと同時に、誰もが見た後はニヤニヤしてしまいます。
 このフェラーリを運転したのはモーリス・トランティニアン。1955年モナコGPでフェラーリに乗り優勝、1950年代のトップランクのF1ドライバーだったこともあって、あんな無謀なことをできたのでしょう。この原稿の締切りまでに調べきれなかったことが一つありました。「男と女」の主役がジャン・ルイ・トランティニアンでレーシングドライバー役をやっていることと、「ランデヴー」のハンドルを握った人がモーリス・トランティニアンということ。この二人、14歳の差はありますが、兄弟なのか親戚なのか、どうでもいいのですが、気になります。クロード・ルルーシュの創造力と無謀さを楽しんで下さい。

inserted by FC2 system